**************歩む************

 
   オフロードバイク・セローの思い出 

 いまだわが心の奥底に、残り火とはいえメラメラとたぎる青春?の血が、オフロードバイクを自在
 に操りたいとの意欲をかり立ててやまなかった…。 
 そんな想い千年?から、ついに念願のマウンテントレイル、ヤマハ・セローを購入してしまったの
 である。森の獣道などをトレッキングするマシーンで、その完成度は究極に近いといわれ、
 超軽量106kg、さて跨がってみると、果たして自転車もどきの扱いやすさで…、ちなみに「セロー」
 の意味は「カモシカ」とか…。        
 舗装路オンリーの「オンロードバイク派」でのツーリングをウン十年も続けていると、もはや関東
 一円での未踏破道路も少なく、それにつれ、心惹く目的地も先細り状態になりつつあったが、折に
 「林道」など走行中、この先「ジャリ道」という場面に遭遇すると、「オフロードバイク」ならど
 こまでも突進できるのにな〜〜、と、ホゾを噛む思いを重ねていた。そんな無念の積み重ねが、つ
 いに私を重大決意へ導いてしまったというわけである…。 
 「連れ」はその危険性から、「もしオフロ−ドバイクを買ったら即離婚する!」と宣言していたし、
 私自身にも今更オフでもないかとの老化思考もあるにはあったが、しかし、その度合いはあくまで
 半分程度、今回身を引き締め真剣に、「離婚」と「バイク」を「テンビン」にかけてみると、「万
 有引力の法則」は正直なもので、どうしてもバイク方へ傾いてしまうのである。かくなる上もなお、
 「法則」に背いてやせ我慢を続けていれば、いずれ心の病にまで発展するのは明白で、それは「ウ
 ツ病」という陥穽が大口を開けて待っていることを意味した。そこで、「エーイママヨ! あとは
 野となれ山となれ!」ってんで、清水の舞台から跳び下りたという次第、さぁ買ってしまっては後
 へも引けず、残りの道はただ一つ、ライテク習得に励み、決して事故怪我を起こさぬようその安全
 性を、「連れ」に認めてもらうしかあるまい…との発心のもと、「荒川土手」へその練習練磨にで
 かけたある日の出来事…とは?。 

 「荒川土手」は恐怖の斜度で、夏草生い茂り、これを登るには蛮勇度胸が要ったが、ガキの頃から
 その手の血潮いまだ健在で、ローギヤに入れるや一直線に駆け登った。すると、案ずるより生むが
 やすしで、タフなセローは苦もなく登ってくれる。登れば下り、再び恐怖の心を打ち沈め、加速を
 殺し一気に駆け下る、これも成功為せば成るだ。いやその征服感たるや言葉もないが、ふと我に返
 れば「六十?才」、こんな危険を犯すバカジィがどこに居るかと自制の念もほのかに湧くのだった。
 何はともあれ一度成功してしまえばあとは度胸がすっかり座って、斜めに登ったり下ったり、気分
 は早くも「モトクロスライダー」に変身している。そして、改めて持って生れた運動神経、なかん
 ずくバ ランス感覚の素晴らしさに自ら唖然とし、はたまたそんな体を恵んでくれた今は亡き双親
 へ感謝の念が湧いたりするのでした、アレレ?。近くで若者数人が、冷笑とともに興味津々眺めて
 いたが、私がコケでもしたら、それ見たことか「年寄りの冷や水」と抱腹絶倒したにちがいない…。
 次は「ジャリ道」へ突入、バイクは私の技量にあくまで従順、意のままに動いてくれ、これもわけ
 なくクリヤーする。 
 …そんな経緯で、いささか自信過剰気味の私に、頭に乗ると何が起こるか? 悲惨な結果が待って
 いた、そういつまでもバイクが言う事をきいてくれるはずもなし、強烈なシッペ返しが待っていた
 のである・・・。
 土手の下半分が波状のコンクリート護岸、斜度はきついがこの程度なら私の技量で屁でもないと一
 気に登りかけた、ところが夏草に覆れた溝の深さが十a、そこへタイヤがはまったその上に、斜め
 上がりでハンドル操作を失い、バイクが左へ倒れかかった、支えようにも左足ははるか下方の着地
 で耐えらず、のしかかるようにバイクが降ってくる、私は自らもんどり打って転げ落ちるしかなか
 った。何てことだ、過去バイクで一度も転倒したことなどないぞ、呆然自失何が何だか、この世の
 出来事? とさえ思えた。幸い手足の擦過傷程度で済んだと思っているが、あるいはどこかを打っ
 ていて、いつの日か重大なオツリが襲うかもしれない。何はともあれバイクは逆さ状態、一人では
 力不足で起こせない、付近で眺める若者たちはただ冷笑を送り、予期した通り誰一人近付いてもく
 れない、普段悪しざまにあげつらうその報いは明らかだ、それにしても今時の若者は本当に薄情す
 ぎる。途方に暮れていると、どこからか中年のオッサンが飛んで釆てくれ助けてくれたが…。どっ
 ちにしても転倒事故、「ワザに溺れた私」に神が据えた「オキュウ」であるのは明白であり、これ
 からはより慎重にをモットーに、心を入れ替えたのでありました…?。 
 さて、オフロードバイクを購入したそもそもの理由は、或る「林道」をもう一度走ってみたいとの
 願望、それは今から二十年ほど前、私がアチコチヘ登山に夢中だったころ、奥秩父でも盟主とうた
 われる「金峰山」へ登山した時のこと、そこへのアプローチに車で通った究極の悪路と、印象的な
 風景が忘れられずにいたからである。「牧丘町」の「金峰牧場」から「大弛峠」まで=当時の「峰
 越林道」、現在は「川上・牧丘林道」という=の悪路といったら、かって体験したことのない究極
 の荒れようで、何度も車腹に石をぶつけ、その都度引き返そう引き返そうと思いつつも、道々の眺
 めが悪路さえ忘れるほど素晴らしく、ついに峠まで走ってしまったことがあった。その風景とは、
 眼下に果てしなく広がる純白の雲海と紺碧の空、そして、はるか彼方に雲海を突き抜け、神々しく
 吃立する「秀峰富士」、その眺望は、生まれて初めてと言えるほど感動的な出会いだったのです…。
 
 八月、ついにその思い久しき念願を「セロー」で叶える日がやってきた。 
 朝 五時五十分出発、「調布IC」より「勝沼IC」まで中央高速道を走り、塩山から牧丘町を通り抜
 け、満を持して「林道」へ突入する。何度か車では通っている「金峰牧場」を過ぎれば、刻々と山
 深く、風も一段と冷気を増してくる。ところが待望の「ジャリ道」が一向に現れない、「オイオイ
 二十年の歳月がこの道まで完全舗装に変えてしまったのか、冗談じゃない、今日のために周囲の冷
 たい視線を背に買ったバイクではないか、こいつに魂を吹き込む最初の機会だぜ!!」とガッカリ
 しながらなおも登って行くと、標高二千b地点くらいからか?やっと舗装路が途絶え悪路へ突入し
 た。オンロードバイクならここで即座に尻尾を巻くが、今日はオフ、ここからが本番心が踊る。凹
 凸激しい岩の道も難なくクリヤー、オフロードバイクの醍醐味を味わいつつ、…それには何度も通
 った荒川土手の基礎訓練がバックボーンとなっているのは論を待たずで…ゆっくり走行を続けてい
 くと、わずか五`ほどで「大弛峠」に着いてしまった。大休止…。谷をはさんで東へ目を向けると、
 ガスのたなびく彼方に「国師岳」から北方へ伸びる稜線が波を打つようだ。開けた大気が冷たくも
 新鮮な空気を胸いっぱい運んでくれる、心の奥まで洗濯された。…結局、期待の大雲海と富士山大
 展望には出会えなかったが、これはオフロードバイク購入に、「連れ」を無視した私に、神様がご
 機嫌斜めだったのかもしれない。 
 さて初めて通る反対側下りもワクワクする悪路で始まった。慎重にコースを選びつつ下って行くと、
 こちらもわずか七`ほどで舗装路に変わってしまった。結局、峠を挟んでわずか十数`ほどのジャ
 リ道しか残ってはおらず、それも二十年前のあの悪路とは程遠く、出発時の期待と意気込みが空振
 りに終わってしまった。…あの究極の悪路を完全走破するのが夢だったのだが、時代は流れている
 し致し方もあるまい…。 

 オフバイクは、体の一部のように動いてくれるところがいかにも私向きで、どんな悪路もストレス
 なく分け入れる、若ければ度量を超え、より危険地帯へも突っ込んで行けたろうに、残念ながら年
 の積み重ねがそれを許さない、安全を最優先させざるを得ないこの歳がワンスモア残念である…。 

 後記……このバイクとは2年ほどの付き合いで終わった。関東一円の林道はほぼ走破してしまった
 から。本当に沢山の思い出を恵んでくれた「セロー」は、次のオンロードバイクの下取りに、バイ
 ク屋の店頭でおさらばしたのである……ありがとうよ セロー!。